海外在住会員の声~日本と海外をつなぐ先生方からのお便り~
ピティナ会員のなかには、海外在住の方もいらっしゃいます。2024年度、ピティナ・ピアノコンペティションやステップで審査・アドバイスをしてくださった先生は10名でした。長期休暇中の一時帰国で各地に出向いて下さったり、昨今新たな参加形態として根付いている動画やオンラインイベントの審査に、現地にいながらにしてお力添えいただくケースも増えています。
この表は、2001年から現在までの、海外在住審査員・アドバイザー(非会員の方を含む)の派遣数の推移です。2020年の感染拡大を経験し、動画コンクールの開催は世間一般的にも主流となりました。移動の制限が生じる一方で、誰もが距離に関係なく集うことができるようになったことは、日進月歩の技術革新によるものでしょう。
- うち、()内は動画開催
年度 | コンペ | 課題曲チャレンジ
※すべて動画 |
ステップ | セミナー |
---|---|---|---|---|
2024 | 36(19) | 3 | 8(1) | 6 |
2023 | 15(2) | 4 | 4(0) | 7 |
2022 | 19(8) | 8 | 8(2) | 7(1) |
2021 | 16(7) | 8 | 3(1) | 4(1) |
2020 | 5(5) | 31 | 3(2) | 1(1) |
動画開催は2020年より導入 | ||||
2019 | 21 | - | 3 | 6 |
2018 | 14 | - | 7 | 9 |
2017 | 15 | - | 2 | 8 |
2016 | 6 | - | 3 | 8 |
2015 | 4 | - | 4 | 8 |
2014 | 2 | - | 2 | 6 |
2013 | 2 | - | 1 | 7 |
2012 | 3 | - | 2 | 6 |
2011 | 4 | - | 3 | 5 |
2010 | 3 | - | 6 | 6 |
2009 | 1 | - | 2 | 6 |
2008 | 2 | - | 2 | 6 |
2007 | 1 | - | 3 | 4 |
2006 | 4 | - | 0 | 0 |
2005 | 2 | - | 1 | 0 |
2004 | 2 | - | 0 | 0 |
2003 | 2 | - | 0 | 0 |
2002 | 4 | - | 0 | 0 |
2001 | 3 | - | 0 | 0 |
これまで海外在住の先生は、一時帰国中に実地のイベントにお力添えいただくという形式が主でしたが、現在では年間を通してつながりを持てる機会があると言えます。渡航制限があった期間をすぎた今、文字通り全国を飛び回って活動されている先生もおり、そのご活躍は皆さんも目にされる機会があるのではないでしょうか。
そのなかで、日本の音楽教育と、海外の音楽教育、どちらにも精通し、国際交流の面でもご活躍されている先生方からのメッセージをご紹介します。
- 入会
- 1997年
- コンペティション審査
- 12回
- 課題曲チャレンジ採点
- 4回
- ステップアドバイス
- 2回
私は現在ドイツ・ベルリンを拠点に、演奏活動やピアノレッスン、またハノーファー音楽大学で勤務などしながら活動しています。ピティナでは、コンクールの実地審査、またコロナ禍以降はオンライン審査も含め、務めさせていただいております。
海外にいながらオンラインで審査に携われることは大変ありがたいことで、皆さんの努力や日々の鍛錬が見えるような熱演に、毎回胸を打たれます。日本人の真面目さ、繊細さが音楽作りに影響していると大変感心しています。
私が住んでいるドイツでは、州で運営している若者のための「Jugend musiziert」という音楽コンクールがあり、地区予選、本選、全国大会までありますが、ピティナの参加者数は他に類を見ない多さで、世界に誇れると思います。これだけの数の方々がピアノに携わっていることは、ピアニストとして嬉しい限りですし、音楽を通してさまざまな発見や経験ができることはとても幸せなことだな、と思います。また、何か一つを懸命にやることは、今後の人生に必ず生きてくると思います。
海外在住のピティナ会員として、そのような若き才能を花開かせるために、今後継続して、勤務先のハノーファー音楽大学の教授たちのマスタークラスを開催したり、海外の著名なオーケストラ奏者やソリストたちとの共演、アンサンブルのチャンスなどを提供できるよう、協力できればと思っています。
- 入会
- 2012年
- コンペティション審査
- 13回
- 課題曲チャレンジ採点
- 3回
- ステップアドバイス
- 1回
若い世代…特に10代から20代にかけては、周囲にいる人々の多くが、同年代の仲間や同門の先輩後輩、コンペ等で一緒になる人たちなので、視野が狭くなりがちです。でも実際の音楽界は宇宙レベルで広く、ピアニストと呼ばれる人間も星の数ほどいるわけです。日の入り後、真っ先に輝き出し、地上にいる我々の目印になるような星は数えるほどで、そのようなピアニストは世界にひと握りでしょう。しかし、宙(そら)には肉眼では見えない星が無限に存在しています。私たちが各々固有の方法で自身を輝かせ、望遠鏡を覗く人々の目にとまるようにするためには、どうすればよいでしょうか。
日本の音楽教育水準の高さは、ピティナの審査を通してリアルに感じられます。コンペに参加し、日々切磋琢磨するような若い音楽家にとって一番シビアな時期が訪れるのは、教育機関に属さなくなり、コンクールの参加年齢制限も過ぎる頃でしょう。そこで初めて途方に暮れないために、自分の居場所がどこにあり、音楽を通してどのように社会に貢献したいのか、漠然とでも早い段階から考えていれば、たとえ迷うときが来ても、正しい航路に導かれると思います。そして地道に力を注いでいけば、必ず自らの手で未来を拓くことができるはずです。
私は在独期間が15年目を迎えた2022年、ベルリンの居住地に音楽祭を立ち上げるため、公益社団法人を共同設立しました。その翌年から国際ピアノフェスティバル「クラヴィーアフェスト・ベルリン・ヴァイセンゼー」を主催、出演し、来年3回目を迎えます。外国人としてのヨーロッパでのチャレンジは、さながら「宇宙の旅」です。この音楽祭を地域に根付かせ、ひとりでに、そして永く輝く星に育てることが、私自身の星を輝かせることだと信じています。
- 入会
- 2004年
- コンペティション審査
- 17回
- 課題曲チャレンジ採点
- 3回
- ステップアドバイス
- 14回
- セミナー講師
- 20回
- 指導者賞
- 3回
今年も熱い!暑い!ピティナ・ピアノコンペティションの幕が閉じました。多くの学びや感動の瞬間があったことと思います。この経験が人生の1ページとして深く刻まれてゆくことでしょう。皆さまの歩み、そして頑張りに拍手を贈りたいと思います。
多いときには年間10回程度ドイツと日本を行き来しながら指導や演奏活動を行っている私ですが、今年度もありがたいことに、3月1日のコンペ課題曲説明会をはじめ、全国各地(東京・大阪・栃木・富山・愛知・岡山・鳥取・愛媛・高知・宮崎など)にお伺いして、課題曲セミナーや特別レッスンの講師、ステップアドバイザーや審査を務めさせていただきました。各地に足を運び、たくさんの演奏をお聞きする中で、私自身多くの気づきがありました。音楽の可能性は無限ですよね!
実際にA2級からF級までの課題曲の演奏や解説をする中で、特に心がけていることは、多角的なアナリーゼ、そして長年のヨーロッパでの生活から得る感覚や風景、イメージ、歴史などを、演奏を通して伝えることです。曲への理解をできる限り分かりやすく言語化することも大切にしています。また、ドイツでの指導で実感している、「生徒たちが自発的に考えること」がいかに重要であるか、日本でレッスンするときにも常に思い浮かべています。このようにドイツ・日本の二か国で生活をしているからこそ伝えられることを、今後も発信していきたいと思っています。
最後になりますが、各地に出向く際、いつも支部・ステーションの先生方がとても温かく迎えて下さることをここに特筆したいと思います。親御さん、そして先生方の支えは、生徒さんたちにとってかけがえのないものだろう、と改めて感じたひと夏でした。
- 入会
- 2015年
- コンペティション審査
- 2回
私は大学生の頃まで、毎年のようにA2級からD級、Jr.G級、G級、特級、福田靖子賞選考会とピティナ関連のイベントに参加させていただき、四期のさまざまな作品を勉強し演奏することや、目標に向かい頑張ることの大切さなど、ピティナを通して数多くのことを学びました。特級を最後にコンペを卒業してから十数年経ち、今年は初めて審査員としてピティナ・ピアノコンペティションに携わりました。小さい頃からお世話になっているピティナで審査員として関わることができたことを、とても感慨深く感じています。
現在は、ベルリンに住みながらリューベック音楽大学の国家演奏家資格課程に在籍し、音楽教室でピアノ講師として生活しています。生徒さんは子どもたちから大人まで本当にさまざまですが、全ての教室にグランドピアノがあるというわけではなく、私が教えているクラスでもアップライトのお部屋が割り当てられることもよくあります。その中で楽譜の読み方やピアノ演奏の実技など指導しておりますが、学習環境の面で、日本の通常のレッスン風景が素晴らしいと改めて感じます。
ピティナの審査をして、小さい頃から舞台で演奏し、聴衆に聴いてもらう機会が身近にあるということが、いかに貴重であり、また素晴らしい指導者の方々がどれだけたくさんいらっしゃるかということも感じました。参加者の皆さんが、とてもきめ細かく、コンクールに向けて熱心に練習されてることも伝わりましたし、人前で演奏する経験をされた学習者の皆さんは、それを何度も反芻することで、表現や心構えの面ではより豊かに成長できると思います。音楽を人に届けるという経験を忘れず、それぞれまた新しい目標に向かって取り組んで欲しいなと心から願っております。
- 入会
- 1998年
- コンペティション審査
- 32回
- 課題曲チャレンジ採点
- 7回
- ステップアドバイス
- 28回
- セミナー講師
- 106回
- 指導者賞
- 22回
演奏活動を機にイタリアに移住して20年になります。はじめは日本の生徒たちをイタリアに招く形での国際交流を志していましたが、気がつけば演奏仲間や音楽財団からのお誘いで、毎年数回北から南までイタリア各地のコンクールの審査に携わるようになりました。普段は、イタリアの音楽院の高等専門課程で、欧州各国とアメリカやアジア諸国からの若い学生を教えています。
イタリアは大小合わせると年間150近くのピアノコンクールがあります。低年齢の子どものカテゴリーであっても国際コンクールの形式をとっていて、審査員もコンテスタントも地続きの各国からの多国籍による参加で、コンクールはピアノを介した国際交流の場となります。各国のピアノ教育の伝統は異なりますし、言語が違えば音色、フレーズ、表現方法も驚くほど多様です。自らの意見を主張するだけでなく、異なる意見にも耳を傾けるということを子どもたちは自然に経験します。ジュニアコンクールで出会った子どもたちが、数年後、ショパンコンクールやヴァン・クライバーンなど国際コンクールの場で再会することもしばしば。世界の若手ピアニストたちが幼馴染として成長してゆく姿はとても感動的です。このような経験を日本の若いピアニストたちとも共有できれば、どれほど素晴らしいことかと思い、10年前からミラノ派遣オーディションを立ち上げ、イタリアの国際コンクールに日本の子どもたちを招待しています。最近では欧州の若いピアニストから、日本で勉強してみたい、日本に留学するのはどうだろうか、と相談を受けることもありますから、近い将来、欧州の子どもたちを日本のマスターコースに派遣するような、新しい試みも実現できるかもしれません。
- 入会
- 2006年
- コンペティション審査
- 54回
- 課題曲チャレンジ採点
- 8回
- ステップアドバイス
- 61回
ご存知の方も多いと思いますが、マレーシアは東南アジアの赤道付近に位置する国です。私がこの国の首都、クアラルンプールに住み始めたのはもう6年以上前になります。縁あって、当地のベントレー・ミュージック・アカデミーの客員教員として勤務しています。
マレーシアの音楽事情ですが、日本をはじめとする音楽先進諸国に比べると、決してレベルは高くありません。しかしそのぶん伸びしろがあり、将来性があることも事実です。マレーシアは英国の影響が強いため、音楽面ではABRSM(王立音楽検定)試験の受験者が多いのが、特徴の一つです。
私は2022年に東南アジアで最も権威のあるピアノイベントの一つ、UCSI国際ピアノフェスティバル&コンクールで、マスタークラス講師とコンクールの本選審査員を務めさせていただきました。また今年10月には、スタインウェイ・マレーシアが企画する、「5か国を代表するピアニストによるコンサート」に出演することが決まっています。私のような者でも、この国の音楽分野のレベルアップに貢献できている、というやりがいを感じることができます。
幸運なことに今も日本との縁は切れておらず、ピティナでは2022年のG級一次の動画審査をはじめ、課題曲チャレンジや予選動画審査で毎年なんらかのお仕事を頂いていることを嬉しく思います。本帰国の予定はしばらくありませんが、日本とのご縁を大切にしながら、こちらでの生活と音楽教育を楽しんでゆきたいと思っています。
- 入会
- 2016年
- コンペティション審査
- 11回
- 課題曲チャレンジ採点
- 6回
ウィーン市立の音楽学校でピアノ指導と伴奏を始めてから18年が経ちました。ウィーンは23の区に分かれていてますが、面積は東京都の5分の1ほど。市内には公立の音楽学校が15校、分校を含めると31校あります。この音楽学校というのは25歳までを対象とした課外教育機関で、楽器や歌のレッスンのほかに、早期教育やダンスのクラスがあったり、ジャズや作曲、古楽器、民族楽器を学べる学校もあります。在籍していると、アンサンブルやオーケストラなどに参加できたり、音楽家を目指す生徒のためのサポートプログラムがあることも魅力のひとつです。
最近は、一つの建物の中に幼稚園、小中学校、音楽学校が入った「キャンパス」と呼ばれる公立教育機関の建設が進み、地域と音楽学校との関わり方がますます密接になってくることを念頭に、カリキュラムも見直されつつあります。市からの援助もあるので入校希望者が多く、例えば、私の勤める区にはピアノ講師3人に対し280人以上の申し込みがあります。在籍しているのは、高倍率を突破できた幸運の持ち主たちですが、7月に長い夏休みに入った途端、皆一斉に休暇に出かけます。9週間ピアノに触らない生徒さんがほとんどです。
思い切り遊ぶのも大事、でもその時期に日本に帰国し、ピティナで審査員を務めさせていただく私は思うのです。「なんと日本人は皆一生懸命だ」と。この夏も、たくさんの参加者の皆さんの素晴らしい演奏から刺激を受け、ウィーンへ戻ってきました。
- 入会
- 2000年
- コンペティション審査
- 9回
- 課題曲チャレンジ採点
- 11回
- セミナー講師
- 15回
- 指導者賞
- 2回
ヨーロッパに拠点を置いて40有余年、近年は日本での活動の比重を増やしています。国内では日本の家のあるピティナ宮城支部に所属し、これまで各地でのステップをはじめ、2021年の特級ファイナルの審査など、コンペティションの審査も定期的にさせていただきました。モーツァルトの講座や、春の課題曲説明会に講師としてお招きいただいたことも、ありがたく思い出します。
以前、アメリカでお子さんたちのコンクールの演奏を聴いたとき、そのアピール力に、ヨーロッパや日本と違うお国柄を感じたものですが、わが国もこのところ優秀な若い演奏家を多く輩出し、総合力が高まっているのを感じています。これも、これまでのピティナに関わる先生方、他ご関連の皆さまの、裾野を広げる地道な努力が実ったものでしょう。
この夏、特級ファイナルの審査員をされたウタ・ヴェヤント先生が主催される、ドイツのPIANALE(ピアナーレ)に再び招かれました。これは、講習会とコンクールを同時に開催するというユニークな音楽祭ですが、意欲に満ちた優れた日本の方々が多く参加していました。一時期、感染症や通貨安の影響で、夏期講習会にも日本人の姿がほとんど見られない時期があった後ですので、とても心強く、嬉しく思いました。
日本は先輩の先生方の長年の努力により、ピアノの基礎教育が世界でも類を見ないレベルであると感じています。また、国内にいながら海外の優れた指導者に教えを受ける機会にも恵まれていますが、やはりヨーロッパの音楽の生まれた土地でその空気を吸い、街並みを眺めて人と交わり、その光や雨音などからも感じ取れるものは大きいでしょう。
音楽を志す方々がなるべく外にも出て、自らを育てた日本を見直し、人格を涵養してさらに豊かな音楽表現に結実させてくださるよう、願っています。
- 入会
- 2022年
- コンペティション審査
- 6回
今年でピティナ・ピアノコンペティションの審査を始めて2年が経ちました。私自身、小学生の頃からピティナに参加し、新しい曲を譜読みし、人前で演奏するのが大好きでした。審査員の先生方の手書きの講評が大きな励みとなり、その経験を通じて現在審査員として講評を書く立場になった今、毎回責任を感じながら、参加者一人ひとりに自分のメッセージが伝わるよう心を込めて書いています。コンクールで受賞することは素晴らしいことですが、結果が伴わなかった方々も、その努力を誇りに思い、次のステージに向けて新たな気持ちで頑張って欲しいと思います。
音楽の道を歩んできた中で、恩師である宮澤功行先生から「曲の第一音から意味のある音を出すこと」の大切さを学びました。ピティナの海外招聘審査員との出会いや、中学・高校生の時に行ったヨーロッパでの国際経験を通じて、私の視野はより広い世界へと広がりました。さまざまな場で演奏を重ねる中で、この教えはヨーロッパでの経験を通じてさらに深まり、評価される機会が増えました。
現在、私はコンサート活動と並行してフランスの音楽学校でピアノ講師と伴奏ピアニストを務めています。フランスでは、公立の音楽教育機関が社会的支援を受けており、比較的安価に音楽を学ぶことが可能ですが、その価値を理解していない生徒が増え、熱心さが減少しているように感じます。フランスも時代が変わりつつありますが、ピティナのように熱心に取り組む姿勢が今後も続き、希望に満ちた演奏にこれからも出会えることを心から楽しみにしています。
- 入会
- 2010年
- コンペティション審査
- 2回
- 課題曲チャレンジ採点
- 4回
- ステップアドバイス
- 7回
スイスのジュネーヴに住み7年目。ヴァイオリニストの夫とデュオで演奏活動しながら、街の音楽院にて代講講師や伴奏員をしています。
ジュネーヴは国連の本拠地としても有名ですが、暮らす人も多国籍でまさに国際都市。その多様性は子どもの音楽院でも感じられ、見た目も親御さんの国籍も話す言葉もまったく異なり、生粋のジュネーヴっ子に出会うことは稀です。先生も外国人が多く、母国で受けた音楽教育を継承しています。
パリ留学時代に出会った音楽家たちはすでに成人のプロでしたので、彼らが幼少期にどんな教育を受けたのか知るよしもありませんでした。しかし、ジュネーヴで多様な国籍の先生たちの代講をするためにレッスン内容について話したり、生徒が使う教材や課題ノートを見ると、ヨーロッパ各国の教育法や価値観の置きどころの違いを肌で感じます。国際的ピアニストの演奏に表れる個性の違いは、幼少期の音楽教育や体験にあると確信しています。
そんな中で、ピティナのオンラインステップやコンペティション審査で日本の皆さんの演奏を聴くことは、私自身が受けてきた日本の音楽教育を追体験しながらも考え直すことができ、興味深い刺激を与えてくれます。
近年はアルゲリッチの幼少期の先生スカラムッツァの教えを訳してメルマガ配信などもしていますが、時代や国、言語をまたぐことで失われてしまう文化や感触があると感じます。
例えばフランスでは音符の上のテヌートを、「テヌート」ではなく「線」と呼び、文字表記のtenutoと区別しています!日本の文化や価値観だけに留まっていると、それらの本当の素晴らしさや、世界に存在するさまざまな可能性にも疎くなってしまうことがあると感じます。音楽の源流への近づき方をたくさん紹介し、循環させる活動を続けたいと思っています。
- 入会
- 2000年
- コンペティション審査
- 16回
私は現在、バンクーバーシンフォニーオーケストラ音楽学校、VSO Schools of Music でピアノを教えております。生徒は、ほとんどがアジア系の学生で、中国からの生徒が大部分を占めております。皆さまとても優秀で、また親御さんもとても教育熱心な方が多いです。
学校では、数々のイベントやコンペティションがあり、コンチェルトコンペティションの優勝者は、バンクーバーシンフォニーと共演できます。私の唯一の日本人の生徒は、12歳の優秀な女の子で、夏の音楽祭では、ジュリアード音楽学校の教授、ジェローム・ローウェンタール先生のマスタークラスを受けました。ピティナ・ピアノコンペティションにも参加した経験があるそうです。
私はピティナと長年のお付き合いがあり、以前、日本に帰国した際には、コンペティションの審査も務めさせていただきました。日本の生徒さんたちは、皆さん、きちんと練習されて弾かれるので、いつも感心しております。
カナダでは、Royal Conservatory of Music(RCM)という音楽メソッドに基いたレベルテストが主流で、レベル1から10、そしてARCTレベルまであります。各レベルでは、エチュード、レパートリー数曲の演奏に加えて、聴音、音楽理論、初見などのテストもあり、上級レベルになると、音楽史、和声、カウンターポイントのテストもあり、高校の単位にもなるので、生徒さんたちにとっては、大変な競争です。
レッスンは、テクニックも大切ですが、こちらではレパートリーをたくさんこなせるように指導しております。特に、小さい頃からコンチェルトも指導しています。
日本人はとても器用に弾きこなされる方が多いので、レパートリーを増やすという観点からも学習いただき、世界で大きく活躍されることを期待しております。最近、バンクーバーとシカゴで、角野隼斗さんのコンチェルトの演奏を聴かせていただきましたが、とても素晴らしく、アンコールでのジャズの演奏にも感動しました。これからは、個性豊かで、創造性のある、チャーミングな演奏家が世界に羽ばたいてゆけるのではと思います。