東北大学・河合楽器製作所・島村楽器・ピティナ・ヤマハが共同研究契約を締結

─大人のピアノ再開が拓く心と脳の新健康習慣─

発表のポイント
  • 東北大学加齢医学研究所と音楽教室に関わる4社(河合楽器製作所、島村楽器、ピティナ、ヤマハ)が、業界横断の体制で共同研究契約を締結しました。
  • 10年以上のブランクがある現役世代を対象に、ピアノの演奏を再開してレッスンと練習を継続することが心や脳の健康に与える効果について、科学的に検証します。
  • 仙台を拠点に、ピアノの演奏再開が心と脳の健康に与える効果や楽器を日常の健康習慣として取り入れる影響を検証します。楽器演奏の価値を再発見し、多くの大人が音楽とともに心豊かに生きる社会、ウェルビーイング注1の実現を目指します。
概要

仕事や育児を両立する現役世代の多くの方は、かつて親しんだ趣味を「もう一度始めたい」と考えたことが一度はあると思います。しかし、趣味の再開が、心と脳の健康にもたらす効果について、科学的には十分に解明されていませんでした。
国立大学法人東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター(センター長:瀧靖之)、株式会社河合楽器製作所(代表取締役社長:河合健太郎)、島村楽器株式会社(代表取締役社長:廣瀬利明)、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(専務理事:福田成康、以下ピティナ)、ヤマハ株式会社(代表執行役社長:山浦敦)の5者が、共同研究契約を締結し、成人のピアノ演奏再開がもたらす心身への効果を科学的に検証する研究を開始します。
本研究は、10年以上のブランクがある30〜60歳を対象に、プロの指導とアコースティックピアノ注2を用いた4~5か月間の継続的な練習が、心理的充足感や脳の機能に及ぼす効果を定量的に評価する、体系的検証です。
現役世代における楽器演奏の有用性を科学的に解明することで、趣味を通じた健康維持という新たな社会的価値を提案し、心豊かな社会の実現に寄与することが期待されます。

詳細な説明
研究の背景

人生の歩みのなかで一度離れたピアノを再び奏でることが、現代を生きる私たちの心と脳にどのような健やかさをもたらすのか、本研究はその学術的解明を目指します。
日本では20歳以上の働く世代の約半数が楽器演奏の経験を持ち、「今後始めたい楽器」としてピアノを挙げる人は36.2%で第1位となっています(ヤマハ音楽振興会, 2022)。かつてピアノを習いながらも中断した「潜在的再開層」の方も多くいると推測されます。しかし、これまで、こうした現役世代を対象に楽器の再開が心身に与える効果について科学的に検証されていません。音楽介入に関するエビデンスは高齢者を対象としたものが多く、社会的責任を担い、ストレス負荷が最も高い現役世代への応用は、未開拓の研究領域です。本研究は、東北大学を中心に複数の楽器メーカーおよび音楽教育関連団体が参画する産学連携の取り組みです。音楽教育という実際の教育・演奏の現場を研究の場として、ピアノ演奏の再開が、心理的・認知的健康にいかに寄与するかを体系的に明らかにし、ウェルビーイング向上策としての科学的根拠を提示することで、この空白を埋めることを目指します。
参画各社は、音楽教室という場の提供に加え、楽器メーカーおよび音楽教育事業者として培ってきた実践的な知見を研究設計や結果の解釈に活かしながら、産学連携の枠組みのもとで本研究に取り組んでいます。

今回の取り組み

ピアノ演奏を10年以上中断している健康な30~60歳、約60名を対象に、参加者を「ピアノ再開群」と「対照群」に無作為に振り分け、効果を比較する「無作為割り付け比較試験(RCT)注3」を実施します。
ピアノ再開群の方には、河合楽器製作所・島村楽器・ヤマハが展開する仙台市内の音楽教室で、プロのピアノ講師による週1回30分の個人レッスンを4~5か月間受講し、加えて、レッスンを受講するために週60分以上の自宅練習を、アコースティックピアノを用いて継続します。対照群の方には、週30分、4~5か月間、ピアノ演奏などの音楽を視聴してもらいますが、それ以外は普段通りの生活を送っていただきます。
介入前後で、最新の心理検査(ストレス尺度・QOL・幸福感等)、認知機能検査(注意・実行機能・ワーキングメモリ等)、指先の巧緻性注4測定を実施し、多角的に分析して評価します。

今後の展開

ピアノ演奏は、楽譜を読む(視覚)、鍵盤を操作する(触覚・運動)、音を聴く(聴覚)という複数の感覚を同時に処理する、日常では得難い脳の総合的な活動です。本研究において、ピアノ演奏の再開がストレス軽減や脳の健康維持に寄与することが科学的に実証されれば、その意義は「個人の趣味」という枠組みを大きく超えるものになると考えられます。
社会的意義としては、楽器演奏が健康維持に寄与する「科学的裏付けのある健康習慣」として広く認知されることで、かつてピアノを習っていた多くの方が再び音楽に親しむきっかけとなります。音楽を楽しむ層の拡大は、個人の心身の健康寿命の延伸や、ウェルビーイングの向上、音楽のある豊かな社会の実現にも繋がります。
また、産業的意義としては、「脳と心の健康に良い」というエビデンスが、楽器演奏を新たな健康習慣として定着させる原動力になります。本研究の成果は、共同研究機関(河合楽器製作所、島村楽器、ピティナ、ヤマハ)がこれまで蓄積してきた楽器・音楽教育に関する知見と相互に活かし合い、健康増進を訴求軸とした音楽教室のカリキュラム設計や指導方法の検討、新たな楽器の開発やサービス企画、そして販促施策などの検討に活かされることが期待されます。業界の主要企業・団体が連携して楽器演奏の再開が健康に繋がるエビデンスを発信することは、楽器業界全体の新たな需要創出(大人の楽器再開市場の拡大)に寄与するものと考えられます。
本研究は、科学と産業の強力な連携により、ピアノが「趣味」であると同時に「健康への投資」として選ばれる新しい社会の実現を目指します。

図1.研究の概要
用語説明
  • ウェルビーイング(Well-being):心理的・社会的・身体的に良好な状態を指す概念。単なる病気のない状態ではなく、生活の充実感・幸福感を含む広義の健康観のこと。
  • アコースティックピアノ:電子回路を使わず、弦と響板の振動で音を出す本来の構造を持つピアノ(グランドピアノ・アップライトピアノ)。電子ピアノとは身体的な鍵盤タッチや振動の伝わり方が異なる。
  • 無作為割り付け比較試験(RCTRandomizedControlledTrial):参加者をランダムに2群に割り振り、介入の有無による差を比較する試験デザイン。科学的根拠の高さで最も信頼性のある研究手法の一つ。
  • 巧緻性:指先の細かな動作を正確にコントロールする能力。本研究では鍵盤演奏技術の向上とあわせて、脳と手指の神経連絡の変化を評価する指標として用いる。
関連サービス
参考記事

大人から始めるピアノレッスンの魅力(ピティナウェブページ)


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