ピアノ指導者・保護者がおさえたい 教育動向トレンド 2022

ピアノ指導者・保護者がおさえたい教育動向トレンド 2022

今回の特集では、大きく変動する学校教育を軸として、ピアノ教育の枠を超えた現在の教育トレンドをお届けします。幼少期の教育、そこからつながる学童期・青少年期の教育に携わっているピアノ指導者、保護者の皆様など、全ての大人たちで子どもたちの成長を見守るために、ぜひご注目ください。

「個別最適な学び」と「協働的な学び」

GIGAスクール構想により、2020年より義務教育では1人1台のタブレット・PC端末が支給されるようになりました。新たに学校における基盤的なツールとなる ICT も最大限活用しながら、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく育成する「個別最適な学び」と、子供たちの多様な個性を最大限に生かす「協働的な学び」の一体的な充実が図られることが求められています。

ピアノの個人レッスンは進度の早い遅いはありながらも、 "おちこぼれ"が存在しない「個別最適な学び」を提供する場 として、それぞれの進度にあったカリキュラムが提供されてきました。今後はさらに「協働的な学び」の場として、異なる学校の生徒との交流、地域との交流、クラシック音楽ならではの歴史をまたいだ学びなど、より 探究的な深い学びの場 としての役割も期待できるかもしれません。

会員インタビュー
鎌田裕子先生
ピティナ・練馬光が丘ステーション代表/正会員

私は昔ながらの、レッスン中に言葉を発することをためらうような、厳しいピアノレッスンで音楽を学んできました。その世界しか知らず、いざ自分がレッスンをする際にも同じようなレッスンをしたところ、保護者の方にお叱りを受けたことがありました。そこで初めて、広い視野でピアノレッスンに求められる役割を考えるようになったのです。

私の教室で扱う教材は特に決めておらず、生徒さんによりさまざまです。コンクールに出場する生徒も、憧れのポップス曲を弾いてみたいと持参する生徒さんもいらっしゃいます。 その子なりの音楽の世界をともに探求し、広げる役割 を担えればと思っています。

また、音楽を通してコミュニケーション能力を身につけてほしいと思っています。例えば音楽会が成り立つには、ピアニストがいなければならないですが、コンサートの運営をする役割も必要です。ピアノ教室の生徒達、また卒業生には 様々な音楽との関り方を知り、それぞれの立場から周りの方々とコミュニケーション ができるようにサポートをしています。

週1回のレッスンではありますが、同じ子供と何年も、何十年も関係を保ちながら、「ピアノ」「音楽」という人生の軸をともに作っていく、という大切な役割を担っていることを日々実感し、素晴らしい職業であると思うとともに、責任をもって子供と接していきたいと身が引き締まる思いでいます。

鎌田先生のステーションスタッフが関わる<OPEN! PIANO PROJECT>のレポートを近日公開予定
①学びのSTEAM化、②学びの自律化・個別最適化、③新しい学習基盤づくりを3つの柱に、9つの課題とアクションを提言する、経済産業省のプロジェクトです。
OPEN PIANO PROJECT
OPEN PIANO PROJECT
学校・病院・保育園・公園などパブリックスペースでの音楽イベントや、アートのジャンルを超えた音楽の探求、新しい音楽教育のかたちの提案…そんな「ピアノをもっと世の中にひらいていく」企画を会員・支部・ステーションと協力しながら全国展開し、ピアノの魅力をより多くの人に届け、可能性をさらに広げていくことを目指すプロジェクトです。
部活の「地域移行」

文化庁、スポーツ庁は令和5年~7年を、部活動の地域移⾏に向けた改革集中期と定めています。教職員の働き方改革の一環として、また地域の持続可能で多様な⽂化芸術環境を⼀体的に整備し、⼦供たちの継続的な多様な体験機会を確保することを目的としているものです。
外部人材が中学や高校の部活動を指導したり、生徒を大会に引率したりできる「部活動指導員」は2017年4月より制度化されており、各自治体での募集もされています。ピアノ講師が「地域の音楽人材」として、学校との関りを持つことことも期待されています。

会員インタビュー
西川千尋先生
石川県/指導会員

音大を卒業して地元でピアノ教室を開いて1年目、教員になった友人たちからの紹介で、現在中学校・高校の部活動にピアノ伴奏として携わっています。

中学校では吹奏楽部のソロ・コンテストのピアノ伴奏、また高校では合唱部のピアノ伴奏をしています。本番前に部活で合わせをするため不定期でのお仕事のため、レッスンの予定をやりくりしながら続けられています。熱心に仲間たちと音楽をつくっていく中高生たちをサポートできることは大きな喜びで、合唱や管楽器の伴奏は自分自身の勉強にもなっています。

合唱部は声楽出身の先生が多く、ピアニストの需要は大きいと思います。また、吹奏楽部に所属している生徒達は個人でコンクールや演奏会に参加する場合伴奏者が必要になってくるため、そのような場面で地域の音楽人材として、生徒たちへのサポートができるのではないかと思います。

3.子どもたちの「サードプレイス」

文部科学省は10月27日、「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」を公表。不登校の小中学生は24万4940人で20年度に比べ24.9%増。この増加幅も過去最大だった。不登校児童生徒数は9年連続で増加し、過去最多となったことが波紋を広げています。

このような状況を受け、現在注目されているのが 「サードプレイス=第三の居場所」 です。サードプレイスとは、第一の場所を自宅・家庭、第二の場所を学校・職場とすると、その二つを行き来するだけではなく人には"第三の場所(サードプレイス)=自分が自分らしくいられる場所"が必要だと、近年提唱されている言葉です。

まさに ピアノ教室は子どもたちのサードプレイスになりうる場所 。一人ひとりの生徒さんにとって、ピアノ教室はどんな場所なのか、ということを改めて考えてみるきっかけにされてみてはいかがでしょうか。

OPEN PIANO PROJECT Vol.4-2 第2回 これからの音楽教育を考える会
OPEN PIANO PROJECT
「不登校」をテーマに、現在の不登校児童を取り巻く環境の変化、フリースクールの実情、ピアノ教室での不登校児の事例調査結果などを共有しつつ、学校でも家庭でもない第三の居場所として、また学校教育になじめない子にとっての個別最適化教育の場としてのピアノ教室という側面に焦点を当ててグループディスカッションを行い、時間が足りなくなるほど活発な意見が交換されました。
ピアノ教室紹介
ピアノ教室紹介
ピアノを習いたい方と、生徒募集中のピアノ教室・ピアノスクール・レッスン室・音楽教室との出会いを無料でスタッフが仲介します。お子様、ご自身にとってピアノ教室をどのような場所としたいか、スタッフとじっくりお話しください。
幼児期の終わりまでに育ってほしい姿

現在の幼稚園教育要領、保育所幼稚園保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領は、2018年4月より施行されました。幼稚園等と小学校の教員が持つ5歳児修了時の姿が共有化されることにより, 幼児教育と小学校教育との接続の一層の強化が図られることが期待されています。

10の姿は、卒園までに育まれてほしい子どもの姿を、5領域をもとに10個の具体的な視点から捉えて明確化したもので、以下の項目を設定しています。

この「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を手掛かりに、文部科学省では、令和4年度から3か年程度を念頭に、全国的な架け橋期の教育の充実とともに、モデル地域における実践を並行して集中的に推進していくこととしています。「幼保小の架け橋プログラム」は、子供に関わる大人が立場を越えて連携し、架け橋期(義務教育開始前後の5歳児から小学校1年生の2年間)にふさわしい主体的・対話的で深い学びの実現を図り、一人一人の多様性に配慮した上で全ての子供に学びや生活の基盤を育むことを目指すものです。

ピアノ指導者、保護者とも連携して、この大切な時期にある子どもたちとのかかわりの中で、どのような取り組みが必要なのか改めて考えてみるきっかけになればと思います。

この方にお話を伺いました!
甲斐万里子 さん
ピティナ音楽研究所 研究員/和洋女子大学人文学部こども発達学科准教授

「10の姿」の項目を見て、ピアノの先生なら 「⑩豊かな表現」 に目を向けて、子どもたちがより良い表現をできるようにレッスンをしよう,またはできていると思われるのではないでしょうか。しかし指導要領に掲載されている「表現」の項目では下記のように記載されている箇所があります。

豊かな感性は,身近な環境と十分に関わる中で美しいもの,優れたもの,心を動かす出来事などに出会い,そこから得た感動を他の幼児や教師と共有し,様々に表現することなどを通して養われるようにすること。その際, 風の音や雨の音,身近にある草や花の形や色など自然の中にある音,形,色などに気付くようにすること。
新幼稚園教育要領のポイント/文部科学省

普段のレッスンで子どもに教えている内容と,少しギャップを感じる先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回提示されている教育要領が目指しているのは,子どもの自発的な活動としての遊びを生み出すために必要な環境を整え,一人ひとりの資質・能力を育んでいくことです。子どもたちが身近な環境に興味をもち,自分からかかわろうとできるような環境を整えるような視点で,ピアノのレッスンにおいても,言葉掛けやレッスンのカリキュラムを工夫してみても良いかもしれません。ピアニストへと成長していくためには,もしかしたら幼い頃から大変なストイックさが必要かもしれません。しかし,そのストイックさにより,子どもの音や音楽への見方を狭めたり,音楽嫌いや苦手意識を高めたり,ひいては幼稚園修了までに育つことが期待される生きる力の基礎の育成にマイナスに働いたりする可能性があることには,留意が必要でしょう。

多くのピアノ教室で取り組まれているのは,西洋クラシック音楽かと思います。私たちは,それを音楽という大きな海のごく限られたジャンルであると認識しなければなりません。

公教育においては,私たちが子どもの頃よりも,西洋クラシック音楽以外も扱われています。楽譜が読めて,ピアノが弾けることばかりが評価されるわけではありません。他者による音や音楽をどのように感じ,また,自らの表現にどう繋げるかが問われる時代です。その意欲を受け止め,様々な表現を楽しもうとする子どもを育てている意識を,ピアノ教室の先生方とも共有できると良いかと思います。

ピアノ教室に求めるニーズにもよるのでしょうが,保護者ともコミュニケーションを取りながら,自由な音楽表現ができる環境づくりを考えてみても良いのではないでしょうか。 また,多様な子どもが一堂に会する保育の現場では,「言葉によらないコミュニケーションツール」としても音を介した表現活動に寄せられる期待は大きいです。子どもそれぞれが,「正しい/正しくない」に縛られず,楽しみ,自信をもって表現できる環境を整えることで,友だちとの関わりの深まりや,自ら行動する力を支えられます。広く音楽を楽しみ,自信をもって,自らの意図を音として発信していける子どもたちを育てていきたいと思っています。

ピティナ・ピアノステップ
ピティナ・ピアノステップ

ピアノでも、他の楽器でも、自分が表現したい音楽を自由に演奏でき、メッセージをうけとることのできるステージをご用意しています。

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